健康診断の結果に「eGFR低下」と書かれ、ドキッとした方も多いのではないでしょうか。「腎臓の働きが落ちているの?」「将来、透析が必要になったら…」と不安に思うのは当然のことです。
しかし、あなたは一人ではありません。実は、慢性腎臓病は日本の成人約5人に1人が該当すると推計される「新たな国民病」。自覚症状がないまま静かに進行するため、腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
だからこそ、この検査結果はあなたの腎臓が発する重要なサインなのです。それは決して手遅れの警告ではなく、ご自身の体を守るための「大切なスタートライン」です。この記事では、eGFRが低くなる原因と回復の可能性、そして今すぐできる対策を医師が詳しく解説します。
まずは確認 eGFRの数値が示すあなたの腎臓の状態
健康診断で「eGFRが低い」という結果を受け取ると、多くの方がドキッとするのではないでしょうか。「腎臓の働きが落ちているの?」「将来、透析が必要になったらどうしよう…」と、心配になるのは当然のことです。
しかし、まずは落ち着いてご自身の状態を把握することが大切です。実は、日本国内の慢性腎臓病(CKD)の患者様は成人の約5人に1人と推計されており、決して珍しい状態ではありません。
eGFRは、あなたの腎臓が今どんな状態なのかを教えてくれる大切なサインです。このサインを見逃さず、結果の見方を正しく知ることから始めましょう。
健康診断結果のeGFRとクレアチニン値の見方
結果の用紙を見るときは、「クレアチニン(Cr)」と「eGFR」の2つの項目をセットで確認してみてください。
クレアチニン(Cr)とは?
私たちが体を動かすたびに、筋肉から自然と作られる老廃物です。健康な腎臓は、このクレアチニンを血液中からフィルターでこし取って、尿と一緒に体の外へ捨ててくれます。
しかし、腎臓のフィルター機能が落ちてくると、この老廃物をうまく捨てきれなくなり、血液の中にクレアチニンが溜まっていきます。その結果、血液検査の数値が高くなるのです。eGFRとは?
血液中のクレアチニン値に、年齢や性別を加えて計算した数値です。「腎臓がどのくらい元気に働いているか」をより正確に評価するために用いられます。
なぜなら、クレアチニンの量は筋肉の量に影響されるため、同じ腎機能でも筋肉質な人とそうでない人では数値が変わってしまうからです。eGFRは、そうした個人差を補正した、信頼性の高い指標と言えます。
eGFRの数値は、腎臓の働きをパーセント(%)でイメージすると分かりやすいかもしれません。
| eGFRの数値(mL/分/1.73㎡) | 腎臓の働き(目安) |
|---|---|
| 90以上 | 正常または高値 |
| 60~89 | 正常または軽度低下 |
| 60未満 | 腎機能低下の疑い |
eGFRが「60未満」の場合、腎臓の働きが健康な人の60%未満に落ち込んでいる可能性を示します。この状態が3ヶ月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)と診断されることがあります。
一度の検査で低かったら?再検査の重要性
一度の血液検査でeGFRが基準値を下回ったからといって、「すぐに腎臓病だ」と落ち込む必要はありません。
腎臓は非常にデリケートな臓器で、その日の体調によって働きが少し変動することがあります。例えば、以下のような要因で、一時的にeGFRが低く計算されてしまうことがあるのです。
- 検査前に激しい運動をした
- 水分が不足している(脱水)状態だった
- 風邪などで熱があった
- 痛み止めの薬(特にNSAIDs)を飲んでいた
脱水状態では血液が濃縮されるため、一時的にクレアチニン値が上がります。また、市販されている痛み止めの一部も、腎臓の血流に影響を与えることがあります。
だからこそ、一時的な変動なのか、それとも本当に腎臓の機能が低下し始めているのか、そのサインを見極めるために再検査が非常に大切になります。
健康診断での指摘は、あなたの腎臓が発している重要なサインかもしれません。決して放置せず、まずはかかりつけ医に相談し、適切な時期に再検査を受けるようにしてください。
なぜ?eGFRが低くなる主な原因
健康診断で「eGFRが低い」と指摘されると、何か重大な病気が隠れているのではと、胸がざわつきますよね。
eGFRが低くなる原因は、決して一つではありません。
年齢とともに少しずつ腎臓の働きが落ちてくる自然な変化もあれば、日々の生活習慣や、腎臓そのものの病気が影響していることもあります。さらには、普段飲んでいるお薬や体の水分量が、検査値に影響を与えているケースも少なくないのです。
ご自身の状態を正しく理解するために、まずは考えられる主な原因を一つずつ見ていきましょう。
最も多い原因は高血圧や糖尿病などの生活習慣病
eGFRが低下する原因として、圧倒的に多いのが高血圧や糖尿病といった生活習慣病です。
国内の慢性腎臓病(CKD)の患者様は、今や成人の約5人に1人にあたる約2,000万人いると推計され、「新たな国民病」とまで言われています。
腎臓は、無数の細い血管が集まってできた、血液をきれいにするための高性能なフィルター装置だとイメージしてください。
糖尿病の場合
血液中の糖が多すぎる状態が続くと、血管の壁が傷つき、硬くもろくなってしまいます。フィルターの網目が詰まったり、破れてしまったりするのです。これが「糖尿病性腎症」と呼ばれる状態で、透析治療が必要になる主な原因の一つとなっています。高血圧の場合
常に高い圧力がかかり続けることで、腎臓の血管は弾力性を失い、硬化してしまいます(腎硬化症)。すると、腎臓に十分な血液が流れなくなり、フィルターとしての機能がだんだんと落ち込んでしまうのです。
このように、生活習慣病の管理は、血管の健康を守ることであり、ひいては腎臓を守ることに直結します。
腎臓そのものの病気(慢性糸球体腎炎など)
生活習慣病とは関係なく、腎臓自体に起きたトラブルが原因でeGFRが低下することもあります。
その代表的なものが、血液をろ過するフィルターの役割を担う「糸球体(しきゅうたい)」に炎症が起きる「慢性糸球体腎炎」です。
これは、本来からだを異物から守るはずの免疫システムに異常が生じ、誤って自分自身の糸球体を攻撃してしまうことで発症する病気の総称です。中でも「IgA腎症」は、慢性糸球体腎炎の中で多く見られる病気です。
これらの病気は若い方でも発症することがあり、自覚症状がほとんどないまま静かに進行するケースも珍しくありません。健康診断の尿検査で血尿やたんぱく尿を指摘されたことをきっかけに見つかることが多く、早期発見と専門的な治療の開始が腎臓の未来を守る鍵となります。
意外と知らない薬の副作用や脱水の影響
病気の治療で飲んでいるお薬や、日々の何気ない水分不足が、知らず知らずのうちに腎臓に負担をかけ、eGFRを低下させている可能性もあります。
特に注意したいのが、市販薬にも含まれる一部の痛み止め(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)です。このタイプのお薬は、腎臓へ流れ込む血液の量を減らしてしまう作用があるため、長期間にわたって使い続けると腎機能に影響を及ぼすことがあります。
また、夏場にたくさん汗をかいたり、発熱などで水分補給が追いつかなかったりする「脱水」の状態も、検査値に影響します。 脱水になると血液が濃縮されるため、老廃物であるクレアチニンの血中濃度が一時的に上昇します。その結果、計算式で算出されるeGFRの数値が、実際の腎機能とは関係なく低く出てしまうのです。
常用しているお薬がある方は、ご自身の判断で中止したりせず、必ず医師や薬剤師にその影響について確認するようにしてください。
このままだとどうなる?将来のリスクと回復の可能性
「腎臓の機能が落ちている」と聞くと、多くの方が「将来、透析が必要になるのでは…」と不安に思われることでしょう。
腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくいという特徴があります。そのため、eGFRの低下というサインを放置してしまうと、気づかないうちに深刻な事態を招きかねません。
具体的には、将来的に2つの大きなリスクに直面する可能性があります。
末期腎不全による透析療法
腎機能が15%未満まで低下すると、自分の腎臓だけでは体内の老廃物や余分な水分を排泄できなくなります。この状態を「末期腎不全」といい、生命を維持するために透析療法や腎移植が必要となります。心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇
あまり知られていませんが、腎臓の機能低下は全身の血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させます。その結果、心筋梗塞や脳卒中といった、命に関わる心血管疾患(CVD)の発症リスクが著しく高まることがわかっています。
しかし、これはあくまで何も対策をせずに放置した場合の話です。健康診断での指摘は、これらのリスクを回避するための「最後のチャンス」とも言えるのです。
早期発見ならeGFRは回復・維持できるのか
「一度悪くなった腎臓は、もう元には戻らないのか…」 そう落胆されるかもしれませんが、決して悲観する必要はありません。
たしかに、一度壊れてしまった腎臓のフィルター(糸球体)そのものを再生させ、失われた機能を完全に「回復」させることは、現在の医療では困難です。
しかし、最も大切な目標は「eGFRの低下スピードを限りなく緩やかにし、今の機能を『維持』すること」にあります。そして、それは早期の対策によって十分に可能です。
特に、近年では腎臓病の治療が目覚ましく進歩しており、将来の見通しは以前よりもずっと明るくなりました。
たとえば、以前は一部の糖尿病治療薬だった「SGLT2阻害薬」などが、糖尿病のない慢性腎臓病の方にも腎臓を保護する効果が期待できることがわかり、治療の選択肢が大きく広がっています。
さらに、2024年度からは「慢性腎臓病透析予防指導管理料」という制度が国によって新設されました。これは、医師だけでなく看護師や管理栄養士といった専門家がチーム一丸となって患者さんを支える「透析予防診療」が、国策として推進されている証拠です。
eGFR低下の指摘は、「手遅れ」のサインではありません。 むしろ、ご自身の腎臓を生涯にわたって大切に使い続けるための「重要なスタートライン」だと捉えてください。対策を始めるのに、早すぎるということは決してないのです。
eGFR低下を指摘されたらすぐに行うべきこと
健康診断で「eGFR低下」の結果を受け取っても、すぐにご自身の判断で「まだ大丈夫」「症状がないから平気」と考えるのは禁物です。
腎臓はダメージがかなり進むまでSOSのサインを出さない「沈黙の臓器」。eGFRの低下は、その沈黙を破って腎臓が発してくれた、数少ない貴重なメッセージなのです。
このサインを見逃さず、すぐに行動を起こすことが、あなたの腎臓の未来を守る上で何よりも重要になります。
受診の目安 eGFRの数値と症状で判断しよう
eGFRの数値が低いと指摘されたら、まずはご自身の検査結果と体調を照らし合わせ、受診が必要かどうかを確認しましょう。腎臓の状態は一度の検査だけでは確定できませんが、以下に当てはまる場合は、お早めに医療機関へご相談ください。
【数値で判断する受診の目安】
- eGFRが60未満の状態が3ヶ月以上続いている
- 年齢に関係なくeGFRが45未満だった
- 40歳未満の方でeGFRが60未満だった
【症状で判断する受診の目安】 腎機能の低下が進むと、体内の老廃物や余分な水分をうまく排泄できなくなり、次のような症状が現れ始めます。
- 顔や足のむくみ
(水分の排出が滞っているサイン) - 体がだるい、疲れやすい
(老廃物が体に溜まっているサイン) - 尿がいつまでも泡立つ
(本来は尿に出ないタンパク質が漏れ出しているサイン) - 夜、何度もトイレに起きる
- 食欲がない、吐き気がする
特に自覚症状がなくても、健康診断で異常を指摘された場合は、必ず一度かかりつけ医に相談し、再検査の必要性について判断を仰ぎましょう。
何科に行くべき?かかりつけ医と腎臓内科の役割
「eGFRが低いと言われたけど、一体、何科を受診すればいいの?」 多くの方が、まずここで迷われるのではないでしょうか。
結論から言うと、最初の相談窓口は「かかりつけ医」です。
高血圧や糖尿病などでいつも通院しているクリニックがあれば、まずはそちらで相談してください。かかりつけ医は、あなたの普段の健康状態や服用しているお薬、他の病気との関連などを総合的に把握しているため、腎機能が低下した原因を探る上で非常に重要な存在となります。
かかりつけ医のもとで再検査を行い、その上で、より詳しい検査や専門的な治療が必要だと判断されれば、腎臓の専門家である「腎臓内科」へ紹介されるのが一般的な流れです。
近年では、こうした医療連携の重要性がますます高まっています。2024年に改訂された診療ガイドでも、日常的な血圧管理や生活指導はかかりつけ医が、専門的な薬物治療などは腎臓専門医が担うといった「二人主治医制」のような連携体制が推奨されています。
まずは身近なクリニックを最初の相談相手として、安心してご相談ください。そこから、あなたの腎臓を守るための最適な治療へと繋がっていきます。
腎臓を守るために今日からできる生活習慣
健康診断でeGFRの低下を指摘されたことは、決して「手遅れ」のサインではありません。 むしろ、将来の透析や心筋梗塞といったリスクからご自身の体を守るための、生活を見直す「絶好の機会」と捉えることが大切です。
「治療」と聞くとお薬をイメージされるかもしれませんが、腎臓病においては、日々の生活習慣の改善こそが、薬物療法と並ぶほど重要な治療の柱となります。
近年では、医師だけでなく看護師や管理栄養士といった専門家がチームとなり、患者さん一人ひとりの生活に合わせた指導を行うことの重要性が増しています。
ここでは、その中でも特に大切な「運動」と「禁煙」について解説します。
無理なく続けられる運動習慣と禁煙のすすめ
腎臓を守るための生活改善は、食事の塩分管理だけではありません。「運動」と「禁煙」は、腎臓の負担を減らすために欠かせない、いわば車の両輪です。
【運動習慣で、腎臓にやさしい血流を】 適度な運動は、血圧や血糖値を安定させ、全身の血のめぐりを良くする効果が期待できます。これは、腎臓のフィルター機能にかかる圧力を和らげ、負担を直接的に軽くすることにつながります。
- どんな運動?
ウォーキングや水中ウォーキング、軽いジョギングといった、息が弾む程度の有酸素運動がおすすめです。 - どのくらい?
まずは週に3〜4回程度から、無理のない範囲で継続することを目指しましょう。
ただし、腎臓の機能が低下している場合、運動が心臓に負担をかけたり、体内のカリウム値などに影響したりすることがあります。運動を始める前には、必ず主治医に「どんな運動を、どのくらい行っても良いか」を確認してください。
【禁煙で、腎臓の血管を守り抜く】 喫煙は、腎臓の健康にとって主要な危険因子の一つです。
タバコに含まれる有害物質は、血液をろ過するフィルターの役割を担う「糸球体(しきゅうたい)」の細い血管を直接攻撃し、動脈硬化を急激に進行させてしまいます。
「CKD診療ガイド2024」でも、禁煙を含む生活習慣の改善は、腎機能の低下スピードを抑え、心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げるために極めて重要であると強調されています。
ご自身の意志だけで禁煙するのが難しい場合は、決して一人で抱え込まず、禁煙外来などを上手に活用してください。あなたの腎臓を守るため、私たちも全力でサポートします。
まとめ
今回は、eGFRが低いと言われたときの原因や再検査の目安について詳しく解説しました。 健康診断の結果を見て、将来への不安を感じた方も多いのではないでしょうか。しかし、その指摘は、あなたの腎臓が「沈黙」を破って送ってくれた、とても大切なメッセージです。
eGFRが低くなる主な原因は高血圧や糖尿病などの生活習慣病であり、放置は禁物です。まずは自己判断せず、かかりつけ医に相談してください。再検査で原因を突き止め、早期に対策を始めることが、あなたの腎臓の未来を守る鍵となります。
「一度悪くなったら元に戻らない」と悲観する必要はありません。治療の進歩は目覚ましく、生活習慣の見直しで機能の低下を緩やかにし、維持することは十分に可能です。この機会を、ご自身の体を大切にするための第一歩としましょう。
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eGFRは、クレアチニンの値をもとに腎臓の働きを推定する指標です。クレアチニンが高いと言われた方は、こちらの記事も参考にしてください。
クレアチニンが高いと言われたら?原因と再検査の目安を医師が解説
参考文献
- CKD 診療ガイド2024
- エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2023

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